武家政権成立史では、12世紀に始まった気候の冷涼化が、武家政権の成立にどのような影響を与えたかを探究している。本書では、気候冷涼化による作物の不作が、飢饉を頻発、封戸収入の減少を引き起こし、収入を確保するために荘園が発展し、それにより国司による徴税と荘園権益の衝突が強まり、武力を必要とする時代を生み出していったしている。歴史とは、人間の意図・行動が歴史を作り、動かすというイメージが強いけれど、気候変動という人間には抗いがたい要因が社会的混乱を引き起こし、歴史を形作るという視点は新鮮で説得力があった。
本書は副題にある通り気候変動が主題だけど、藤原信西や平清盛の人物像についても新たな視点が提示されている。藤原信西は保元の乱では勝者となりながら、続く平治の乱では討たれてしまう。その理由について深く考えたことがなかったが、彼が後白河天皇の親政から二条天皇の親政へと移行を目指していたとする解釈には腑に落ちた。
「驕れる者」というイメージが強い平清盛も、実際には後白河上皇と二条天皇の間でバランスを取る抑制的な人物だったそう。しかし1170年代の気候悪化が、国と地方の争いの増加を招き、鎮圧に当たる平家に対する憎悪も溜まっていく。後白河法皇との関係も不穏になり、最終的に平家は反乱からの滅亡へと進んでいく。もし気候の揺らぎがなければ、平清盛の台頭も没落もなかったかもしれない。そう考えると、歴史の繊細さを改めて感じさせられる。