ハブソン大学歴史学特別教授のジェームズ・フープス氏の著作。本書では、マネジメントの大家(グル)の生い立ちとその歴史的背景を紹介しながら、グル達の思考について優れていた部分と優れていなかった部分を評価しています。マネジメントの大家そのものの人生を掘り下げて紹介しているという点で他の本とは違う趣きを持っています。
この本の核心は、たとえマネジメントの大家と呼ばれるほどの知識人であっても、「個人的な経験」や「思い」がバイアスとなり、その時、その状況に対する最適な解を示すことができない場合があるということではないかと思います。本書では「企業とは何か」におけるドラッガーとスローンとの認識の違いについて「社会の視点からGMを分析して、時として現実離れした道徳主義に陥った(p330)」と評しています。当時のドラッガーは理想的な社会に対する思いが強すぎて、利益団体である企業の現実に対するずれた評価を下してしまった。
本書から導出される知見は、ドラッガーの主張がすべて「偽り」であるということではなく、「社会とは、会社とはこうあってほしい」というドラッガーの思いが込められていることを認識したすることで、適切な状況でドラッガーの知を活用することではないかと思います。常にドラッガーの格言が最適とは限らない、逆にドラッガーの格言が最適の場合もある。 他の大家にも同様のことが言えます。
翻って考えてみれば、それは自分自身にも言えます。自分が何かを主張するとき、その主張には自分の経験や「思い」に偏ったものかもしれません。それがその時、その状況では最適な解ではないかもしれない、それを認識し、自省することがより質の高い仕事をするのに必要なことではないかと思います。はい。
余談ですが、個人的にドラッガーのすばらしいと思うところは、学習することを止めずに進化していったところです。スローンも「後年、十分に地に足のついた考え方をするようになったとドラッガーを高く評価(p336)」したそうです。