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「ライフプロジェクト」を読んだ

みすず書房が出版しているライフプロジェクトを読んだ。子供の成長について何かしらの良いプラクティスが書いてあるかなあとか、最初はそういう面持ちで読んだのだが、そういう本ではなかった。イギリスで継続して行われている大規模コホート研究プロジェクトそのものの物語であった。

コホート研究の詳しい説明はWikipediaを参照。喫煙する人と喫煙しない人の集団の時系列の変化をみて、喫煙する集団の将来癌を発症するリスクに有意な差があるかどうかを調べたりとか、そういったことをする。イギリスの大規模コホート研究の最初のものは1946年から行われていて、今年で72年目になる。まさにゆりかごから墓場までのコホート研究と言える。そんな素晴らしい研究も膨大な調査にかかるコストが大きく、繰り返し研究を終了する危機にさらされた。統計的に有意になるように調査人数は多くしないといけないし、過去にさかのぼって質問はできないから、10年後・20年後のことを見据えながら幅広く質問をしないといけない。データの管理も今と比べてすごく面倒な作業だったし、研究をするのも交絡因子の排除がすごく難しい。そういった困難の物語が描かれている。

本書の中にはコホート研究の継続の画期となった発見「気管支炎または肺炎を2歳未満で患った子どもは、成人して20代で呼吸器疾患にリスクが高く(p117)」が紹介されている。小さい時に経験したことが、成人した後の健康にも影響を及ぼしているというのは、大規模コホート研究でないとわからない発見だなと思う。人生はリセットされないのか…という妙な絶望感もある。高血圧みたいな慢性疾患についても、小さいときに経験したことが有意な差を与えるそうだ。人生の大勢は、胎児の段階で決まってしまうのか… いや、大人になってからの生活習慣が問題なんだ、みたいな議論があったときの結論が示唆に飛んでいる。

私たちの健康状態は生涯に起こるすべての結果なのだ。生物学的な側面には、親から受け継いだ遺伝子、子宮内での発育、小児期の成長、青年期の成熟、そして成人してからの行動が含まれる。社会的な側面には、出生時の社会階級、親、家庭、学校、職業、成人してからの社会経済的地位が包括される。ひとつのことが次のことに影響をおよぼし、それがまた次に影響をおよぼすといった連鎖反応が続いて、最終的にすべてのメリットとリスクが積み重なって、いま現在の健康状態をつくりあげているのだ。(p187)

あらためて読むと当たり前の気もするけど、人生はすべての積み重ねなんだなと思う。

以上。