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本:季語の誕生

書名の通り「季語」の始まりについて論考した本。俳句における季節感(季語)は歳時記(季語をまとめて四季別に分類したもの)を絶対視しすぎているのではないかという疑問から始まり、代表的な季語「雪」「花」「月」の三つについて、その言葉にある含意を文化的背景や宗教的背景を踏まえながら、季語がどのように成立したのかのルーツを辿ります。特に「月」については、年中見ることのできる月がどうして秋という季節に限定されるようになったかなど、紙面を割いて説明しています。

季語を再考する上でのキーワードとしては「地貌(ちぼう)」というものをあげています。地貌とは「風土の上に展開される季節の推移やそれに基づく生活や文化まで包含することば(p.v)」としており、貴族文化として発展した俳句の世界にある「京都中心、畿内中心」のものの見方とは異なる考え方。「地に足をつけた俳句」と言えるのでないかと思います。本書ではその代表として松尾芭蕉の俳句を多く取り上げています。

季語について個人的に俳句に興味があったわけではなく、季節をテーマにして写真を撮ろうとしたときに「季節」をどう捉えたら良いのかという疑問から手にした本でしたが、思いのほか俳句の世界の奥深さに触れることができて面白かったです。特に松尾芭蕉の俳句の「本歌どり(既存の歌を踏まえて作成された歌)」についての解説が印象深く、既存の歌にある背景を積み重ねていくことで五七五という短い文に相当に深い意味を持たせることができるのだなと思いました。著者の宮坂さんの文章もとても読みやすく、文章の書き方としても参考になる本です。