「ロングテール」の著者であるクリス・アンダーソンの著書。インターネットの世界に広がっている「フリー(自由/無料)」のサービスについて、どうしてフリーのサービスがうまれるのかについての解説と、フリーのサービスにおけるビジネスモデル、生産者と消費者との間にある取引についての整理分類をしています。
フリーのサービスが生まれる理由として、「アトム(モノ)」と「ビット(情報)」の違いと「潤沢さ」に注目しています。「潤沢さ」というのは、サービスとして提供するモノが「無料にしても気にならない」ほど潤沢に存在することを意味しています。デジタルなデータ(ビット)で構成されているサービスは、有限な物質(アトム)で構成されるモノよりも、複製が容易であり、1つ生産するためのコストが0に近いため、潤沢に用意することができる。
本書では、フリーの経済モデルを、「直接的内部相互補助(無料品を呼び水にして有料品の購入を促す)」「三者間市場(広告主収入)」「フリーミアム(少数の有料ユーザーでまかなう)」「非貨幣市場(贈与経済と無償労働)」という4つに分類しています。「直接的内部相互補助」は、たとえば試供品を配ったり、1個買うと1つタダみたいな従来的なモデル。「三者間市場」はラジオやテレビといったメディアで汎用性のあるモデルで、「フリーミアム」や「非貨幣市場」は「潤沢さ」を前提にしたビット世界ならではのビジネスモデルという感じがします。1ユーザーあたりの限界費用が0に近いからこそ、幾百万の無料ユーザーをかかえることができて、そのうち5%のユーザーが有料であればビジネスとして成り立つ。コストという視点からユーザーを絞り込む必要がなくなっており、それゆえユーザーの規模が巨大で、ごく一部のユーザーが料金を支払ってくれるだけでも十分に採算があう。ロングテールの考え方に近いところを感じます。
個人的に関心を持ったのは「潤沢な情報は無料になりたがる。稀少な情報は高価になりたがる(p130)」という点。「潤沢な情報」とは何か、「希少な情報」とは何か、その違いは何なのかいまいち判らないのですが、潤沢な情報を土台に希少な価値を生む情報を形作る、というのが自分が持っているイメージです。たとえば「私個人が今欲しいと思っている情報」なんかは、情報としての価値が高い。フリーのサービスを成功させるポイントがこのへんにあるのかなと思いました。
全体的にそんなに目新しい発見はないのですが、逆に納得感のある内容となっています。インターネット上に散見する「フリー」という現象を体系的に眺めてみたいときや、新しいサービスのアイデアを練るときに役に立つのではないかと思いました。良書です。