水の未来についての本。10章構成で、水の使われ方から、現在の過度の取水状況、水が生み出す自然と災害、水紛争、これからの水との関わり方まで、水に関する話題を多角的に取り上げています。水資源の問題の本質は水そのものが足りなくなっているというよりは、国レベルでの非効率な水資源の使用(主に砂漠での灌漑農業やダムの建設)や、上流側の資源の独占による生態系の変化などにある、という印象を持ちました。
本書の最後の方には、水のユニークな取水方法(ネットのようなもので水滴を集める)や点滴灌漑というような「1滴あたりの収量を上げる」、水を効率的に利用する農業手法などが紹介されています。巻末にある沖さんの解説もすばらしく、本文全体の概要と、砂漠での灌漑農業など、日本では首を傾げてしまうような話について、フォローしてくれています。
個別のトピックとして一つ関心を引いたのは、仮想水(バーチャルウォーター)という考え方です。仮想水とは、たとえば穀物などを輸入した場合に、その穀物を作るために費やした水の量を表します。たとえば、1トンの小麦を輸入したら、1000トンの仮想水を輸入していることになる(p9)。フードマイレージなどと同様に、モノに隠れてしまう資源の消費を視覚化するのに良い指標だなと思いました。
また、「自分たちが自然に取って代わるのではなく、自分たちが「水循環に加わる」ことを学ばなければならない」という言葉に感銘を受けました。たとえば雨水が地表に浸透し、それが地下水となる。地面がアスファルトになると、雨水は排水路などを通り、地表に浸透することなく海に流れ出てしまう。アスファルトは都市生活には必要である一方で、水資源の確保という意味で効率が悪い。河川の氾濫・洪水は、住居に被害をもたらす反面、大地を肥沃にする。湿地帯は使い道の少ないように見えて、水の貯水という意味でも意義があるし、多様な生命を育む。ダムは取水には便利かもしれないけれど、蒸発して失われる水も多い。自然の仕組みには一長一短があり、人の生活には不向きな面もありますが、人口の建築物よりもうまく水を循環できる。水資源を効率的に確保・利用するために、都市文化と水循環の融和というのは、とても大事な考え方だなと思いました。