かなり前に読んだ本。マゼランアイナメ(和名:銀むつ)を漁獲するとある密猟船をオーストリアの巡視船が追跡するという話を主筋に、なぜ銀むつが乱獲されるようになったのかなどの背景を説明していきます。環境問題(魚の乱獲)を扱った本ですが密漁船と巡視船の攻防に緊迫感があって、普通の読み物としても面白い内容となっています。とくに南極でのチェイスにはドキドキしました。密漁船が他国の領海に入ってしまった場合の捕縛の難しさや国によって船舶の許可の基準が違うことによる弊害(規制の緩い国が違法船の温床となる)など、漁業ならではの問題にも端々触れています。
なぜ魚の乱獲に至ったかについては、一つにマーケティングの結果というのが上げられています。新しいメニューの一つとして売り込んだ魚(はじめはチリ・シーバスという耳障りの良い名前をつけられていた)が、高い人気を持つようになり需要が高まる。その結果供給が正規の漁獲量を上まり、レストランでは量を確保するために密猟ものの魚が許容されてしまう。ここには消費者側がブームに乗って単一の種類の食べ物を嗜好過ぎてはならないという教訓があるように思いました。以前にダーウィンの悪夢というドキュメンタリー映画を見たことがありますが、内容的に通じるところがありますね。
ダフィーは善悪の境目が混乱した裁判の様子を見ながら、もっと大きな問題が忘れ去られているのではないかとも感じていた。北半球の人々が遠く離れた海に潜む魚に心を奪われる。その様子を目にした密猟者は大喜びで船団を組む。そして運よく乱獲を免れていた世界最後の漁場の一つが破壊されようとしている --- 一つ一つの動きが結びつくことによって、誰もが意図しなかった結果が引き起こされようとしているのだ。(p 309)