生命の持つロバストネス(強靭さ)について、システム生物学(システムバイオロジー)という視点で解説した本。本書は4章構成で、1章がロバストネスについて、2章はロバストネスの表裏一体(トレードオフ)の関係であるフラジリティ(脆弱性)について、3章はガンの仕組みとそのロバストネス、4章は進化とロバストネスについて。ページ数は200ページほどありますが1ページあたりの文字数が少ないので、1〜3日で読める分量です。装丁もきれいで、読みやすい。
ロバストネスとは、本書では「システムが、いろいろな擾乱(じょうらん)に対してその機能を維持する能力(p37)」と定義しています。たとえば、何らかの異常が発生したときでも、機能停止に陥ることなく、処理できるようにシステムが構築されている場合、その異常に対するロバストネスを持っていると言えます。飛行機は制御システムの故障にロバストネスを持つために、同じ処理を行うシステムを3つ搭載しているそうです。仮にシステムのうち一つが故障しても、他の二つによって安全に航行することができるわけです(実際には、三重のシステムを三重に備えている)。
ある問題に対して、どのようにロバストネスを向上させるかについては、四つのアプローチが紹介されています。一つはシステムの制御で、与えられた観測情報を元に軌道修正するというもの。一つは冗長性と多様性で、どこかで問題がおきても他の機構がフォローできるようにするというもの。一つはモジュール化で、問題が発生した場合に、問題が広域に広がらないような仕組みにするというもの。最後の一つがデカップリングというもので、状態の「ゆらぎ(変性)」を吸収して元の状態を保つようにするというものです。この四つのアプローチは、問題の解決や、改善に向けた行動計画などを考えるときに役立ちそうです。
ただ、ロバストネスを向上することによって、別のところにフラジリティ(脆弱性)がでてしまう場合があることを考えなければいけません(これが第二章の内容)。たとえば人間の健康で言えば、低血糖状態というリスクの高い状態を回避するためのシステムが、糖尿病を引き起こす要因となったりする。たとえば、コンピューターによる制御は正確で迅速な対応が可能となる反面、停電に弱いとか。ロバストネスにはその代償がフラジリティというかたちで、どこかに存在する。すべてに対してロバストネスを保つことはできないから、どこにロバストネスを持たせるのか、なにをもっとも重要とすべきかを考えるのが肝要。このあたりに、きっとシステム構築の妙というのがあるのだろうなあと思いました。
会社組織で言い換えれば、一人ひとりが何らかの機能を持っていて、お互いに連携しながら、組織全体のロバストネスを向上していると言えるかもしれません。ロバストネスの考え方は、いろいろなシステム(組織)に幅広く応用がききそうです。