キャズムの著者、ジェフリー・ムーアの本。三部構成で、一部が製品ライフサイクルモデルの全体の説明、二部がイノベーションのタイプの説明と、ライフサイクルの地点に応じたイノベーションの方法についての詳説、三部は「慣性力」についてと、「コア」へ資源を集中させるための方法論についてです。
本書では、製品ライフサイクルとそれに応じたイノベーションとは何かから始まり、イノベーションを起こすべき「コア」な製品とは何か、コアではない「コンテキスト」な製品(サービス)とは何か、そしてイノベーション(変化)を実行することに対する社内外の抵抗(慣性力)に対して、どのように対処するかというところまで論じています。前著である「キャズム」や「トルネード経営」など概念を包括しており、一貫性のある、広く深い内容となっています。
第八章の「イノベーション選択のプロセス」では、自分たちが「カテゴリー成熟化ライフサイクル」のどこに位置しているのか、どのイノベーションを選択すべきかを考えるためのフレームワークを提供しています。ただ、ライフサイクルのどこに位置しているのかを分析するための判断基準みたいなものについては、深く論じられていません。たとえば、業績が落ちてきたときに直感的に「自分たちはいまキャズムいるんだ」と言うことは簡単だけれども、本当にキャズムにいるのかはわからない。おそらく、ここが一番難しいところで、自分たちの製品がいまライフサイクルのどこにいるのかを判断するには、市場に関する客観的な判断と決断力が要されるのだろうなと思います。言うは易し。
個人的に関心がそそられたのは、第九章の「コンテキストから資源を抜き出す」と第十章の「コアに向けた資源の再配分」という話。業務を「コア」と「コンテキスト」か、「ミッションクリティカル(問題があるとやばい)」かそうでないかという二軸にわけて、どのようにして資源をコアに再配分するかを論じています。いわゆるリソースのライフサイクルと言っても良いかもしれません。これは個人の業務においても考える価値のある話だなと思いました。実際に私の仕事は「コア」に位置する仕事よりも、過去の遺産で重要ではないけど、問題があると対外的に困るところ、ミッションクリティカル・コンテキストに位置する業務が、その重要性を保ったまま残ってしまっています。これらの業務から自分を開放して、コアの業務に集中していくことが、個人の仕事の仕方として、重要なのかなと思います。
本書では「ミッション・クリティカル・コンテキストから経営資源を抽出する(p286)」方法として、集中化、標準化、モジュール化、最適化、アウトソーシングという、5つのステップを紹介しています。業務の効率化(オーバーヘッドを少なくする)と定型化と、問題が起きたときのリスクを減らすというアプローチによって、リソースを開放する、このあたり、前回の記事のロバストネスに通じるところがあるなと思いました。日々これ精進なのです。